テン・ハグのサッカーが日本代表のロールモデルに?ノーミルク佐藤の着眼点

ノーミルク佐藤が語るテン・ハグ監督の前編
【引用:GOAL公式Twitter & Off The Ball編集部】

5季連続で無冠となった名門マンチェスター・ユナイテッドの復権を託されたエリク・テン・ハグ監督。若きアヤックスをUEFAチャンピオンズリーグベスト4に導いた功績が記憶に新しいが、実際どのような手腕の持ち主なのだろうか?サッカー専門YouTubeチャンネルでMCを務め、データ企業を経営する戦術分析家のノーミルク佐藤氏は、「まず最初に、ぜひ記事内で取り上げてほしいのが『森保一監督はテン・ハグのアヤックスをチェックしているのではないか』ということ」と開口一番に打ち出している。

目次

ビルドアップが「常軌を逸した」テン・ハグ監督のアヤックス

モダンサッカーでは、前線からのハイプレスが常識となっており、守備陣からすれば、常に圧力を掛けられながらのビルドアップを強いられることになる。当然、プレスによるビルドアップのミスは、失点に直結するリスクを伴う。そのような中で、アヤックスが見せるビルドアップの完成度は突出しているようだ。

ノーミルク佐藤

テン・ハグ体制のアヤックスで先発していた11人は、とにかく凄まじい。ビルドアップが常軌を逸している。単純な話、相手が1枚でやってきたら、CB2枚で剥がすことになる。相手が2枚なら、こちらは3枚。相手が3枚なら、こちらは4枚になるのが基本。それでも、あのマンチェスター・シティやリバプールでも、相手が可変で枚数を変えてきた時に、どうしても多少のラグは発生する。だが、アヤックスにはそれがない。全員がレシーバーでもつけているのではないかというレベルで、ビルドアップからのミスが全く見受けられない。あらゆるパターンに対応できる、それがテン・ハグが築き上げたアヤックスだった。

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状況に応じてシステムやポジションが可変するテン・ハグ監督のサッカー

4-3-3システムでアンカーを務めるメキシコ代表MFエドソン・アルバレスが主にビルドアップの起点になるが、アルバレスのコースを消された場合でも、インサイドハーフのオランダ代表MFライアン・フラーフェンベルフ(現バイエルン)や両サイドバックのオランダ代表DFデイリー・ブリント、モロッコ代表DFノゼア・マズラウィ(現バイエルン)が可変でコンバートする対応策が滞ることなく実行される。

ノーミルク佐藤

アンカーのアルバレスがマークされた際は、左でやや下がり目の位置取りをしているインサイドハーフのフラーフェンベルフがすぐさま落ちてくる。さらにアルバレス自身も、自分が隠されると感じた際に、自ら下がって3バックに可変する。また、フラーフェンベルフが落ちてこれない状況にある際は、両SBのブリントとマズラウィが中に入り、ダブルボランチ化する。例えば、右SBのマズラウィがアンカーのアルバレスの脇に位置取りしたら、最終ラインがクルッと右に旋回して、左SBのブリントがCBにシフトする。その逆も然り。これを片方ではなく、両SBができるのが圧巻の一言。

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海外に引き抜かれる日本こそ「テン・ハグの哲学を模範とするべき」

アヤックスは、レアル・マドリードやユベントスといった優勝候補を破る快進撃でCLベスト4に輝いた。そこからオランダ代表DFマタイス・デ・リフト(現バイエルン)やオランダ代表MFフレンキー・デ・ヨング(現バルセロナ)、モロッコ代表MFハキム・ツィエク(チェルシー)を筆頭に主力勢が続々と引き抜かれ、メンバーが刷新されることに。それでもクラブは新たな逸材を発掘し、チーム力を劣化させることなく、見事な入れ替えを見せている。

ノーミルク佐藤

CBのティンバーが前線に持ち上がるチャンスメイクも効いていて、あらゆるビルドアップのパターンが確立されており、相手をかいくぐって自陣から抜け出すための選択肢の多さに関しては、世界で見てもアヤックスがずば抜けていると言える領域だった。CLでビッグクラブを次々と撃破し、ベスト4でもトッテナムをあと一歩のところまで追い詰めた2018-19シーズンが際立っているけれど、そこから主力を何人も引き抜かれている中で、また若い選手を育成し、そのようなハイレベルを維持できている。そのため、海外に引き抜かれる立場の日本のクラブこそ、テン・ハグの哲学を模範とするべきだと思っている。

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アヤックスにあって日本代表に不足している決定的な問題点

ビルドアップのパターンをいくつも確立しているアヤックスに対し、日本代表はアンカーを務めるMF遠藤航を封じられた際の対応に課題を抱えている。

ノーミルク佐藤

日本代表の話に変わるが、先日の日本対チュニジアや、W杯最終予選の初戦オマーン戦でもそうだったが、遠藤航選手に対して、相手が厳しいマークを施してくると、日本は崩れがち。なぜかと言うと、CB2人から中盤にボールを預けてから攻撃を仕掛けていくというのがベースだから、遠藤選手が隠されると滞ってしまうというのが日本の決定的な問題点になっている。それに対してアヤックスは、解決策が山ほどある。

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日本代表がチュニジア戦で試みていた“アヤックス流”の重要性

チュニジア戦はホームで大敗を喫したことが国内で大きな反響を呼んだが、ノーミルク佐藤氏は日本代表が“アヤックス流”のチャレンジを試みていたことの重要性を説いている。

ノーミルク佐藤

チュニジア戦の敗戦で、森保ジャパンは世間からは袋叩きに遭い、メディアにも酷評されていたけれど、個人的には、0-3の結果は正直どうでもいいと思っていて、いろんな選手を試している段階であること、さらに、これまでできなかったことが一つだけ明確にできるようになったのが重要だと感じている。あの試合、遠藤選手が厳しくチェックされていて、序盤はそれを剥がせずに遠藤選手が一人で右に左にズレてどうにかしようとしていたが、途中からは原口元気選手が落ちてくるパターンだったり、遠藤選手を経由せずに伊藤洋輝選手から自陣の脱出を狙ったり、板倉滉選手が持ち出しを試みていた。

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日本代表の位置関係の変化に「アヤックスっぽさを感じていた」

現在の日本代表はMF田中碧とMF守田英正の”元川崎フロンターレコンビ”がインサイドハーフのレギュラーに定着しているが、今年に入ってから、両者の立ち位置の変化にノーミルク佐藤氏は注目していたという。

ノーミルク佐藤

日本代表が完全にアヤックスを模範することは難しい。それでも、ビルドアップの出口を多くするというパターンに関して、森保監督はアヤックスを入念に確認していたんじゃないかという印象を受けた。今年の3月頃、田中選手と守田選手の位置関係が均等に横並びではなく、意図的にズラし始めていた頃から、アヤックスっぽさをを感じていたが、今年の6月頃からそれがより顕著となっている。少なからず、ただ試合をこなしているんではなく、チャレンジしている。

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守備対応にも「アヤックスと日本代表は似通った部分がある」

アヤックスは格上の相手をCLという大きなトーナメントで撃破している実績がある。日本代表もW杯という舞台を控えており、個の力ではドイツやスペインに敵わない中で、徹底的な規律で強さを体現したアヤックスを模範するのは理にかなっている。

ノーミルク佐藤

守備面に関しても、アヤックスと日本代表は似通った部分がある。“選択肢限定型”で、相手のチームに対してどこから攻めさせるか、攻撃の限定化を図る方法で、相手がアヤックス陣内に侵入してきた時には、どのレーンのどのゾーンにスペースが残されているのかほぼほぼ決まっている状態。中盤では3対3の1on1の構図となり、相手からすれば「選択肢が狭まっている」と感じさせ、心理的有利を生み出すことでボールを奪ってそこからカウンターに持っていける。アルバレスとフラーフェンベルフでボールを奪取する流れが、遠藤選手と田中選手の構図に近い。ビルドアップや守備対応の面で、森保監督が目指しているスタイルの先には、テン・ハグのサッカーを感じ取ることができる。

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日本代表が目指すべきテン・ハグ監督のサッカーのまとめ

アヤックス時代に革新的なサッカーで強豪クラブを打ち破ってきたテン・ハグ監督だが、カタールW杯に向けた日本代表が、アヤックスの多彩なビルドアップを参考にしているとノーミルク佐藤氏は見解を述べていた。アヤックスで見事な功績を残したテン・ハグ監督は、いよいよ世界的ビッグクラブであるユナイテッドで指揮を執ることになったが、果たしてどのようなチーム作りを進めるのか?後編ではテン・ハグ監督のユナイテッド政権について取り上げる。

当記事のインタビュイー

ノーミルク佐藤のプロフィール

株式会社Lifepicture代表取締役、YouTubeCH「ミルアカ」MC『ノーミルク佐藤』。

複数webメディアの運営や企業の経営改善、マーケティング、プロモーション、教育事業を行う傍ら、自社でサッカーのデータラボを立ち上げ、独自にデータの収集・分析・開発を行う。

ABEMA「ゼルつく」の専属データマンとしての出演、ABEMA「FIFAワールドカップ2022抽選会生中継〜最速予想&分析SP〜」などの出演、GOAL主催Jリーグ版NXGN2021選考委員等も務める。

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この記事を書いたライター

「Off The Ball」編集長。
大手サッカー専門メディアに過去6年配属。
在籍時は、高校サッカー・J1リーグを主に担当。
「DAZN」企画でドイツ・スペインへの長期出張で現地取材を経験。
人生の転機は、フェルナンド・トーレスの引退会見で直接交わした質疑応答。
趣味はサウナ。

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