【W杯】PK戦に強くなるための施策は?関塚隆の提唱「過去のJリーグに…」

PK戦を強化するための施策は?
【引用:Eurosport公式サイト & Off The Ball編集部】

PK戦は運だから仕方ないーー。敗戦した際、頻繁にそういった声を目にする。しかし、本当にそうだろうか?もちろん、運の要素もあるだろう。しかし、厳密に言えば「両チームともにPKを細部まで対策し、万全を尽くした上で臨むPK戦は運」ということになる。

ロンドン五輪で日本代表をベスト4に導き、日本サッカー協会技術委員長も務めた関塚隆氏は、最も攻略し難いPK戦に関して、自身の見解を述べている。

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日本に再び立ちはだかったPK戦の壁

※当記事のインタビューは2022年12月6日に実施したものです。

日本はカタールW杯のベスト16でクロアチア代表を相手に、PK戦の末に敗戦。日本は4人が蹴ったうち、3人が外す結果に終わった。2010年の南アフリカ大会と同様、史上初のベスト8進出は、またもPK戦に阻まれることになった。

関塚隆

ベスト8進出が懸かっているあの状況でPKを蹴るというのは、技術以上にやはりメンタルが問われる。計り知れないプレッシャーだろうし、キャリアで1,2度経験するかどうかというレベルの重圧の中でPKを蹴る。これは、部外者の人間がなんと言おうと、その状況で蹴った選手にしかわからない。平常心で蹴れば、もっとコースや強さを調節できるのは当たり前の話だが、あの状況で平常心を保てる選手は、世界でも限られてくると思う。

共通事項に高校サッカーとユースの違い?

また、PK戦に関して、2010年大会と今大会を比較すると、ある共通点が浮かび上がるとも指摘している。それは、選手としての生い立ちが高校サッカー出身か、またはユース出身か、という点だという。

関塚隆

南アフリカ大会では、遠藤が決め、長谷部が決め、駒野が外し、本田が決めた。カタール大会では、南野が外し、三笘が外し、浅野が決めて、吉田が外した。上記で挙げた選手のうち、PKを決めているのが全員、高校サッカー出身。そして、外しているのが全員、ユース出身。これは単なる偶然とは思えない。インターハイや選手権など、一発勝負の短期決戦が多い高校サッカーでは、成長期に極度の緊張感の中でPK戦を経験する機会がある。その一方、ユースは基本的にリーグ戦が主戦場。過去にJリーグに採用されていたPK戦(延長無しの即PK戦。勝利は勝ち点2で、敗北は勝ち点1)をU-18プレミアリーグやJユースリーグで採用してみる試みは、経験値を積み上げることに繋がるのではないだろうか。

PK戦の経験値で差を見せつけたクロアチア

クロアチアは、百戦錬磨のベテラン勢であるMFルカ・モドリッチやMFイヴァン・ペリシッチがピッチから退いている中で、4人のうち3人が決めている。大舞台で培ったPK戦の経験値の差を見せつけられる形となった。

関塚隆

クロアチアは、2018年大会でも、決勝トーナメントで2回もPK戦を経験していて、いずれも勝利している。4年に1度しかない大舞台で、前回大会で2回もPK戦で勝っているというのは、やはり経験値としては非常に大きいよ。土俵に立った数が違いすぎる。相手のGKの駆け引きも巧みだった。キッカーが外すことばかり注目されるが、その試合でGKが乗っているかどうか、実際にはそこが最も勝敗に影響するからね。

驚異的なPK阻止率を誇るクロアチア代表GK

とりわけ際立ったのが、クロアチア代表GKドミニク・リヴァコヴィッチだ。日本側のシュートコースが甘かったとは言え、逆を突かれることなく適切にセーブしてみせた。また、「Transfermarket」によると、この守護神はPKにおいて、キャリア通算54本のうち14本を止めており、PK阻止率は25.9%と驚異の数値を叩き出しているという。(※ベスト16時点)

関塚隆

(GK視点で)最初に左に飛んで止めて、次は右に飛んで止めて、その次も右に飛んだけれど、それは浅野に決められて。この流れの場合、次のキッカーの心情としては、「今度は左に飛ぶんじゃないか」と少し脳裏に過ぎる。だけど、クロアチアのGKはそこでまた右に飛んで、吉田のキックを止めた。後から蹴るキッカーは、その前に誰がどこに蹴って、GKはどこで止めたかなど、嫌でも情報が目に入ってくる。蹴る順番が後ろであればあるほど、駆け引きの難易度は上がっていく。そこでのメンタル面の戦いは途方もない。

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日本が今後のPK戦勝率を上げていくためには?

もちろん90分、もしくは120分で試合を決めることに越したことはないが、これまでW杯ベスト16で2回のPK戦を経験し、2回とも競り負けている現実がある。日本が今後、大舞台でのPK戦の勝率を少しでも高めていくのには、一体どうしたらよいのだろうか。

関塚隆

日本人選手としては、やはり5大リーグのビッグクラブに所属して、重圧のかかった試合をこなしていくしかないと思う。極東にある国としては、代表の取り組みだけでは限界がある。なので、クラブで世界の最前線と戦って、そこで得た経験値を代表に還元していくしかない。Jリーグであれば、国をあげて毎年ACL優勝を目指せる強化をして、クラブW杯で本気の欧州クラブ、南米クラブと対戦する。そこでPK戦の機会があれば、率先して蹴っていく。それでしか積み上がってはいかない。

PK戦に強くなるための施策のまとめ

日本はクロアチアにPK戦で敗れ、ベスト8への壁に再び阻まれたことで、PK戦への対策やトレーニングの必要性をメディアで取り上げてられていた一方、同じベスト16でスペインがモロッコを相手に、PK戦で1本も決められずに敗退している。
さらに、ベスト8の舞台では、優勝候補筆頭のブラジルが、クロアチアにPK戦で敗れる波乱も起きた。

明確な解決策やアプリーチ方法、関塚隆氏は、今日本ができる限りの施策を打ち出している。

  • 過去にJリーグでも採用していたPK戦(延長無しの即PK戦。勝利は勝ち点2で、敗北は勝ち点1)をU-18プレミアリーグやJユースリーグで採用する施策の検討。
  • 国外であれば、5大リーグのビッグクラブに在籍し、重圧のかかった試合を数多く経験していく。国内であれば、毎年ACL優勝できるよう国をあげて取り組み、“本気”の欧州王者、南米王者との試合を重ねていく。

経験値が豊富な強豪国でも、PK戦を攻略できない実情。しかし、もしも日本が2026年大会のベスト16で再びPK戦に直面した場合、また「PK戦は運」で片付けるべきことなのか。もしそうであれば、その「運」を手繰り寄せられる「実力」を、今後の4年間で身につけていくしかない。

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関塚隆
当記事のインタビュイー

関塚隆のプロフィール

鹿島アントラーズ コーチ

清水エスパルス コーチ

川崎フロンターレ 監督…J2優勝

U-23日本代表 監督…ロンドン五輪ベスト4

ジュビロ磐田 監督

ジェフユナイテッド千葉・市原 監督

日本サッカー協会 技術委員長

詳しいプロフィールはこちら

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この記事を書いたライター

「Off The Ball」編集長。
大手サッカー専門メディアに過去6年配属。
在籍時は、高校サッカー・J1リーグを主に担当。
「DAZN」企画でドイツ・スペインへの長期出張で現地取材を経験。
人生の転機は、フェルナンド・トーレスの引退会見で直接交わした質疑応答。
趣味はサウナ。

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