【オシム氏追悼対談 #3】城福浩×小倉勉 名将が重んじた尊厳「人であることを忘れるな」

オシムを語る城福浩と小倉勉の第3弾

イビチャ・オシム氏がこの世を去った。80歳だった。ジェフユナイテッド市原(現千葉)、日本代表を率いたオシム氏は、日本サッカー界に確かな変革をもたらした。U-17日本代表監督の時代にオシム氏と多くの言葉を交わした城福浩氏、ジェフ市原・日本代表ともにオシム氏の元でコーチを務めた小倉勉氏も、そんな名将から大きな影響を受けたサッカー人の1人だ。「Off The Ball」はU-17日本代表で共闘した城福浩氏と小倉勉氏による対談インタビューを実施。第3回となる本記事では、オシム氏が重んじた選手との向き合い方について語る。

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目次

オシム氏の練習内容が「実際に試合で起こる」

小倉 勉

オシムさんは何かしら上手いプレーをさせるために練習するんじゃないんですよね。試合でこういうことが起こりそうだ、だからこういう練習をする、というように、試合から逆算されたトレーニングを組んでいました。結果的に選手たち自身も、試合から逆算された練習の中で上達する実感が生まれるのと、実際に練習で取り組んだ場面がそのまま試合中に出てくると驚いていました。パスやシュートを上達させるために練習をするのではなく、試合で起きる可能性の高いプレーに対する練習になるんです。なので、週末の試合で「あ、この場面、練習で取り組んだな」と思うシーンが実際に何度もありました。それって、なかなか我々の発想の中では出てこなかったなと印象に残っていますね。

城福 浩

試合に近い練習をしたいのであれば、練習で試合を組めばいいと考えがちだが、そうではないんだよね。練習の中でも11vs11、8vs8はできるんだけど、いつもそれだと選手の心境の部分で好奇心や冒険心をくすぐることは難しい。そこでオシムさんは、多くの色のビブスを着させるトレーニングを取り入れたんだよね。試合は味方と相手しかいないけど、もう一色、二色とビブスを加えて、条件をつける。試合よりも少し選択肢が多くなる状況で、視野を拡げさせたり、試合の場面を想定させたりするから、実際に週末の試合に臨むと、自分と相手しかいないわけだから、練習で取り組んだことを達成しやすくなるんだよね。練習の時にビブスの配色を工夫して、試合に近いものを体現しつつ、選手の好奇心や冒険心を刺激するというのは、俺も実際に目にして衝撃を受けたよ。だから、自分たちのU-17代表の練習でも、よく10色くらいビブスを用意してもらってたんだよね。オシムさんが日本代表に就任する前は3色くらいしかなかったら、ジャージを裏返しにしてビブス代わりにしていたし(笑)でも、オシムさんが就任してから、ビブスも10色に増えたんだよね(笑)

オシム氏が徹底した「全員参加」

ジェフユナイテッド市原時代のオシムと小倉勉
【提供:小倉勉氏】
小倉 勉

選手ってやっぱり正直だし、若手もベテランも人間なので、全員を満足させるのって難しいじゃないですか。25人ほどいる選手を、全員満足させてシーズンを終えるというのは本当に難しい。何が難しいかって、試合に出られる、出られないはもちろんそうなんですけど、例えば、試合を想定した紅白戦みたいな練習に入れる入れないというのもあって。週末に向けた紅白戦となると、どうしても20人プラス数人でチーム分けをする形になり、余ってくる選手が出てきてしまう。でも、オシムさんは常に全員を参加させる練習を徹底していました。試合や練習に関わることのない選手が、週末の試合までほとんど出てこないんですよ。

城福 浩

一番リアリティーがある練習は、紅白戦なんだよね。チームを持っていれば、紅白戦で試合に一番近い状況を生み出せるわけなんだけど。でも、そこでフリーズさせながら、ここでああしてこうしてと指示するとなると、小倉も言ったように、20人ちょうどの選手をフィールドで持つことができるわけではないから、必ずそこで練習や紅白戦に入れない選手が、少なくて3人、多くて7,8人出てきてしまうことになる。オシムさんは、その選手たちをピッチの外から眺めさせるという状況を作り出さないんだよね。そういう状況が出てきてしょうがないと思っていた我々からすると、選手が参加できないという状況を作らずに、試合に近い内容を表現していく練習を両立させていたことに驚かされた。

オシム氏の言葉「我々が扱うのは物ではなく人」

小倉 勉

僕自身、ジェフ時代に勉強になったことがあって。ナイターの試合の時は午前中も練習するわけですけど、そこでメンバーが確定したと思ったので、練習終了の時点で僕が先にメンバーを発表してしまったんです。そこから試合メンバーが変わる可能性が全くのゼロというわけではなくて、実際オシムさんはその時にメンバーを変えたいと思っていたことが後からわかって。でも、僕が発表してしまったことで、オシムさんに「お前が監督なのか?」とすごく怒られたんですよ。実際、オシムさんはメンバーを変えたんです。それで、僕はスタジアムに向かうバスの車中で、選手たちに頭を下げて「申し訳ない、自分の早とちりでメンバーを発表してしまったが、メンバーが変わることになった」と謝って、メンバーから漏れた選手はバスを下りてもらったことがあって…それは僕の指導者の人生で一生忘れることのない出来事になりましたね。最後の確認をせずに判断してしまったわけですけど、そういうことに対してオシムさんは非常に敏感で、選手に対してリスペクトを重じるんです。若手であろうが、ベテランであろうが、一人の人間として尊重する姿勢は一貫していました。「我々が扱うのは、物ではなく人であることを忘れるな」と言われたのをはっきり覚えています。

城福 浩

俺も監督やってきたからよくわかるけど、試合の直前のメンバーから変えるって、相当勇気がいる。相当な信念がないとその決断はできないし、だからこそ、そのメンバーを変える時の当事者へのリスペクトを大事にしていたんだろうね。試合直前であれば、発表されなくても選手たちは「このメンバーでいくんだな」とわかっているし、そのわかった状態から変えるわけだから。

小倉 勉

準備というのは、非常に大事だと思うんですが、日本人というのは、準備万端なのが好きな民族。だからこそ、早め早めに準備を進めるわけですが、実際にサッカーで一番求められるのは柔軟性で、一般的な選手と偉大な選手の差は、最後の最後で判断や状況を変えることができる能力だと思うので、そういう意味では、それをしっかりと見極めるオシムさんと一緒にやっている僕らコーチ陣がもっと成長しないといけないと強く思いましたね。

城福 浩

柔軟性って一言で言えば簡単だけど、最後の最後でメンバーを変える、それを選択肢を持っていること、それをやり切ることが凄いし、リスペクトと覚悟に溢れてないと、到底できないし、選手たちもついてこない。そのリスペクトと覚悟が土台となって、オシムさんの柔軟性が成り立っているんだろうね。

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オシムを語る城福浩と小倉勉の第3弾

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この記事を書いた人

「Off The Ball」編集長。
大手サッカー専門メディアに過去6年配属。
在籍時は、高校サッカー・J1リーグを主に担当。
「DAZN」企画でドイツ・スペインへの長期出張で現地取材を経験。
人生の転機は、フェルナンド・トーレスの引退会見で直接交わした質疑応答。
趣味はサウナ。

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