レアル・マドリード完全復活の要因は?小倉勉が指名するキーマンたち

UEFAチャンピオンズリーグ、リーガ・エスパニョーラ、国内カップで優勝を果たし、文字通り世界の頂点に立ったレアル・マドリード。快進撃を見せる“白い巨人”が見事な復調を遂げた要因について、ロンドン五輪のヘッドコーチを務め、今季から東京ヴェルディのヘッドコーチに就任している小倉勉氏が見解を述べている。

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レアルの強さは「原理・原則の理詰めにこだわらないところ」

1902年に創立されたレアルは“銀河系軍団”と呼称されるように、豊富な資金で数多くのビッグネームを獲得。これまでリーガを34回、CLを13回、FIFAクラブW杯を9回と優勝を果たしており、世界屈指のクラブへと飛躍を遂げた。小倉勉氏はレアルの歴史的な強さの真髄について、持論を述べている。

小倉 勉

レアルの強さは、戦術に原理・原則の理詰めにこだわらないところにある。宿敵関係にあるバルセロナには何十年も前から“バルサモデル”という哲学があって、『バルセロナのサッカーはこうだ』と語ることのできる人はたくさんいる。バルセロナは理詰めで、自分たちの哲学に沿った選手を獲得し、チームを強化する。その点、レアルとは大きく異なる。レアルはその時に在籍する選手、在任する監督の特長によって戦術の方針も大きく変動する。バルセロナと比べて、歴史的に見ても『これこそがレアルのサッカーだ』というスタイルを固めていない。矛盾しているように聞こえるかもしれないが、哲学がないことこそが、レアルの哲学なんだと。定石のないサッカーが、レアルの強みなんだと思います。

アンチェロッティはレアルにとって最適な指揮官

現在レアルの会長を務めるフロレンティーノ・ペレス氏はこれまで元フランス代表MFジネディーヌ・ジダンやポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウドを筆頭に、その時代に最もサッカー界を席巻しているトッププレーヤーを常に獲得してきた。スーパースター集団の圧倒的な戦力を擁する一方、チーム全体を組織としてオーガナイズさせるタスクが難しいチームとしても認知されている。そんな中、小倉勉氏は現在指揮しているカルロ・アンチェロッティ監督こそがその役割に最適な人材であると称賛している。

小倉 勉

レアルはペレス会長がチーム作りの主導権を握っており、会長の求める選手を獲得する。それはシンプルに戦力的な補強の側面もあり、商業的な目論見もあるだろう。だからこそ、話題性のあるビッグネームの優先度が高い。そうなると、監督に求められるのは、ペップやクロップのような『確固たる戦術を確立している監督』ではなく、『チームから与えられた戦力から逆算できる監督』になる。そういう意味では、アンチェロッティは、選手の個性をうまく融合して最大限のパフォーマンスを引き出すのが最も上手い監督だと思う。ペップやクロップというシェフは『絶品料理のレシピがあるから、それに合う食材を用意してください』とオーダーするが、アンチェロッティは『今冷蔵庫にある世界各地の超高級食材から、その食材に合った絶品料理を作ります』という監督だ。

マンチェスター・シティを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督、リバプールを率いるユルゲン・クロップ監督は現在、世界最高の指揮官として評価されているが、それぞれポゼッションサッカー、カウンターサッカーを極めた戦術家であり、チームの戦い方に適した選手の補強を行っている。一方、レアルは、クラブ首脳陣が獲得してきた選手をいかにチームにフィットさせるかが監督のミッションとなる傾向が強い。アンチェロッティ監督は上記の2人ほど明確な戦術を持ち合わせてはいないが、これまでマネージメント力で結果を残してきた名将であり、現戦力の最大値を引き出す指揮官として、レアルにとって最も相性の良い監督と言えるかもしれない。

レアルの司令塔クロースがチームの出来を占う

現在、絶対的エースの元フランス代表FWカリム・ベンゼマ、ヤングスターのブラジル代表FWヴィニシウス・ジュニオールが圧巻のパフォーマンスを披露しており大きな注目を集めているが、長年に渡るレアル最大の武器と言えるのが、中盤のトリオだ。とりわけ、前線と中盤のリンクマンを担う元ドイツ代表MFトニ・クロースの出来は、チーム全体にとてつもない影響を及ぼす。

小倉 勉

今のレアルであれば、カゼミーロ・モドリッチ・クロースの中盤が軸。今世界で最もスペシャルな中盤と言える。3人それぞれが異なる持ち味を備えており、この3人だからこそ成立する絶妙なハーモニーが奏でられている。実際に、3人が揃った試合の勝率は7〜8割だが、1人でも欠けた試合の勝率は5割前後。いかにこの3人が揃うことが重要なのかを物語っている。クロースが長短のパスでリズムを作る役割を務めているが、彼が自由にプレーできないと、チーム全体が煮詰まった状態になってしまう。

アラバのレアル加入がクロースに好影響

中盤の3人は長年に渡りタッグを組んできた中、阿吽の呼吸とも言える連携を見せる一方で、近年は当然対戦相手も中盤に対策を投じてきており、クロースに対して潰しにくるケースが多い。そんな中、小倉勉氏はバイエルン・ミュンヘンから加入したオーストリア代表DFダビド・アラバの存在が大きいと言う。

小倉 勉

クロースがボールを受けに下りてくる時は、右利きなので大概左サイド寄りで、これまではやや低い位置からゲームメイクすることが多かった。しかし、今季はアラバがいる。彼は左サイドバックも遜色なくこなせる攻撃的センターバックで、質の高い縦パスを供給できる。なので、クロースは深い位置まで下りてこずに、高い位置でボールを受けることが可能になった。アラバの加入で最も恩恵を受けたのはクロースなのではないかと思う。間違いなくプレーしやすくなったはず。クロースが下りてきた場合、布陣として大きな五角形になるが、クロースが1つ前に留まれることで、そのホームベースを敵陣で生み出すことができる。高い位置になった分、中盤選手にボールを供給するハードルは上がるが、アラバの強みは、ボールを持ち出せること。それにより、アラバの加入は、レアルの攻撃陣に絶大な影響をもたらすことになった。

アラバの持ち味は「今の日本人CBに必要な要素」

アラバはDFだけでなく、中盤やウィングまで卒なくこなすことができる世界指折りのユーティリティープレーヤーと評価されている。レアルでは主戦場をCBとしながら、最終ラインからゴール前まで駆け上がる“超攻撃的CB”として、加入初年度から存在感を発揮している。小倉勉氏は、アラバのようなタイプが今の日本人CBに必要な要素だと指摘している。

小倉 勉

今の日本人CBは、パスは供給できるようになったが、敵陣までの持ち上がるプレーをもっとする必要性がある。CBが前線に持ち出すことで、相手選手を引き付けられるので、高い位置で2対1の数的有利を作り、相手の守備網を剥がすことができる。それは、パスで剥がすよりもずっと有効的。リバプールのマティプはまさにそのようなプレーを強みとしている。ビジャレアルのパウ・トーレスや、チェルシーのリュディガーもそう。CBが相手ゴール前まで持ち上がるプレーは世界のトレンドになりつつある。

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DFマティプの持ち上がりはリバプールにとって大きな武器に。

【引用:リバプール公式Twitter】

レアルが復活を遂げた要因のまとめ

【引用:レアル公式Twitter】

今季のレアルはカップ戦を制し、リーグ戦も首位を独走。CLもベスト4へと進出している。快進撃の要因として、クロースの高いポジショニングを挙げており、それはアラバ加入がポジティブな影響をもたらしているという。小倉勉氏は「クロースが例年よりも高い位置を取ることができることは、相方であるモドリッチの負担を軽減することにも繋がっている。ベンゼマやヴィニシウスの目覚ましい活躍に注目されがちだが、アラバの加入により、最終ラインから中盤にポジティブな影響が生まれ、その中盤から最前線へポジティブな影響を生み出している流れにも着目してみても面白いかもしれない」と語った。

当記事のインタビュイー

小倉勉のプロフィール

U-17日本代表 ヘッドコーチ… AFC U-17選手権優勝

日本代表 コーチ… 南アフリカW杯ベスト16

U-23日本代表 ヘッドコーチ…ロンドン五輪ベスト4

大宮アルディージャ 監督…J1残留

ヴァンフォーレ甲府 ヘッドコーチ…J2優勝

横浜F・マリノス SD…2017年〜2022年

東京ヴェルディ ヘッドコーチ…2022年〜現在

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ジョータツ

「Off The Ball」編集長。 大手サッカー専門メディアに過去6年配属。 在籍時は、高校サッカー・J1リーグを主に担当。 「DAZN」企画でドイツ・スペインへの長期出張で現地取材を経験。 人生の転機は、フェルナンド・トーレスの引退会見で直接交わした質疑応答。 趣味はサウナ。