なぜリバプールとマンUに圧倒的な差が生じた?城福浩が指摘「システムではない」

イングランドサッカーにおいて、リバプールとマンチェスター・ユナイテッドは、100年単位における歴史的ライバル関係にある。一方、近年はその関係性に変動が起きており、優勝争いを繰り広げりリバプールと、トップ4争いを強いられるユナイテッドと、立場に明暗が分かれている。これまで数々のJクラブを指揮し、現在は東京ヴェルディに就任している城福浩氏は、イングランドサッカーの歴史を築いてきた両チームに計り知れない圧倒的な差が生じていると語っている。

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リバプールとマンUのライバル関係に変化

リバプールvsユナイテッドは、世界で見ても最も注目を集める対戦の1つであり、日本では“ナショナルダービー”と表現されることも多い。それは、両チームがフットボールの歴史上で激戦を繰り広げてきた故の宿敵関係にある。試合前にはサポーター同士の殴り合いもザラにあり、試合が始まれば互いにイエローカード、レッドカードが飛び交う荒れ試合となることも珍しくなかった。しかし近年は、このカードは穏やかに試合終了のホイッスルを迎えることが多い。というのも、リバプールとユナイテッドの間に、あまりに大きい実力差が生じてしまっているためだ。城福浩氏も、決して容易く埋まる差ではないことを指摘している。

城福 浩

ユナイテッドがリバプールに追いつくには、世代交代を含め、ドラスティックに進めないと厳しい現実を叩きつけられた。ビッグネームを1,2人獲得してなんとかしようとする方法では難しいと思う。もちろん、意識の改革次第で変わることのできる選手もいるだろうが…。試合後のラルフ・ラングニック監督の『リバプールに6年もの遅れを取っている』というコメントからも、状況の深刻さがわかる。決定力のあるストライカーがいるかいないか、というだけの差ではないことを認めざるを得ない現状であるということ。

試合前にリバプール主将ヘンダーソンが示した姿勢

両チームの立場の違いは、試合前の入場シーンから垣間見えていた。

城福 浩

試合前の入場シーンは非常に興味深かった。ユナイテッドの選手たちが先にロッカーアウトしていて、入場を待っていた。普段であれば、互いに和やかに談笑することが多いタイミング。だが、リバプールの主将を務めるヘンダーソンは、明確にピリッと緊張感ある態度で示していた。その姿勢に両チームの選手が影響を受け、挨拶さえ交わすことがなかった。『ユナイテッドとは状況が違う。俺たちは優勝するために勝たないといけないんだ』という無言のメッセージを、相手選手にも味方選手にも伝えていたように映った。

入場を待つユナイテッドの選手たちは審判団と談笑したり、リラックスした表情を見せていたが、後から現れたイングランド代表MFジョーダン・ヘンダーソンは険しい表情で誰も寄せ付けないオーラを放っていた。キャプテンの姿勢に続くように、リバプールの選手たちも顔を引き締めてキックオフを待っていた。試合後、ユナイテッドのポルトガル代表MFブルーノ・フェルナンデスは「リバプールはタイトルのために闘志を燃やしていた。我々は戦う理由を見いだせなかった」と吐露したコメントが全てを物語っていた。

マンUは5バックシステム採用も“リバプール対策”は実らず

ユナイテッドは普段とは異なり、試合開始から3バックシステムでこの試合に臨んだ。圧倒的な攻撃力を誇るリバプール対策を打ってきたということになるが、試合開始早々の前半5分、最も簡単に守備網を打開され、先制点を与えてしまった。

城福 浩

(先制点は)マティッチがフラフラっと食いつき、あっさりと失点してしまった。この場面は、マティッチが出るよりも、前線の選手がプレスバックしなければ、簡単にボランチ脇を使われてしまう。落ちてきた選手に対して、ボランチが掴みにいくのか、前線がプレスバックするのか、全く明確でなかった。マティッチがフラフラと出てしまったことで、マネに簡単に前を向かれてスイッチが入った。

https://twitter.com/LFC/status/1516658672268500995

【引用:リバプール公式Twitter】

この先制点で勢いに乗ったリバプールに主導権を握られ、ユナイテッドは前半22分に華麗なパスワークに翻弄され、痛恨の2失点目を喫してしまう。

城福 浩

ユナイテッドが後方からのビルドアップに揺さぶられ続け、セカンドボールも拾われ続け、全体が沈んでしまったのが要因。リバプール側も、沈んだ相手にあのコンビネーションは見事だったが、ユナイテッドが強者としての守備を全くできていないのも事実。ユナイテッドの3-4-3システムは、まず5バックのポジション取りから入るため、基本的にプレッシングをかけられずズルズル下がる。システムを変えても、いきなりソリッドな守備を形成できるわけでは決してない。

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【引用:リバプール公式Twitter】

リバプールとマンUには「根本的な部分に差がある」

城福 浩

結局、フィールドプレーヤーは10人。機を逃さずボールに圧力をかけ、ラインの押し上げと前線のプレスバックがあって、初めてコンパクトに強く守れる。加えて、攻守においてフルスプリントをどのタイミングで何人がするのか、その判断の質、ハイスピードの中での技術の質の差になる。システムや対策は問題ではなく、もっと根本的な部分に差があるということ。これらのベーシックな要素で頭ひとつ飛び抜けているのが、マンチェスター・シティとリバプールだ

ユナイテッドは試合の序盤から自陣を固める戦い方で臨んだが、結果的にこれが仇となった。前半のスタッツを紹介すると、ポゼッション率はリバプールが75%でユナイテッドは25%。また、シュート本数もリバプールが9本に対し、ユナイテッドは0本。パス本数はリバプールが452本であるのに対し、ユナイテッドは146本と3倍以上の差をつけられた。さらに驚くべきは、パス成功率がリバプールは92%なのに対し、ユナイテッドは64%だった。いかにリバプールが試合内容で圧倒したかを数字が物語っている。

城福 浩

リバプールは中盤でほとんど圧力がかからないので、チアゴや、センターバックであるマティプまでもが、気持ちがいいほどやりたい放題できていた。それにしてもマティプは、時折攻撃面でも驚くようなプレーを披露するね…。そういう意味でも、マティプとファン・ダイクのCBコンビは、プレミアNo.1と言えるだろう

https://twitter.com/LFC/status/1516824515074007055

【引用:リバプール公式Twitter】

リバプールのチームレベルを上げたチアゴの存在

後半にはユナイテッド側が従来の4バックに戻し、イングランド代表MFジェシー・リンガードがリバプールのアンカーを務めるブラジル代表MFファビーニョに厳しく潰しにかかるという明確なタスクを託されたことで、前半ほど一方的な試合とはならなかったが、結果的には後半でもリバプールに2ゴールもの追加点を許した。城福浩氏は、リバプールの危機管理能力の高さに加え、スペイン代表MFチアゴ・アルカンタラの存在感に触れている。

城福 浩

ユナイテッドは4-4-2システムで後半に臨み、すぐに4-1-4-1システムの形になった。ユナイテッドのペースになった時間帯があったので、そこで1点返したかったところだが、試合を通して、ピンチのひとつ手前でシャットアウトできるリバプールの地力が一枚も二枚も上手だった。サンチョとアーノルドの1対1の場面で、ファビーニョがフルスプリントで戻ってカバーしていたシーンがわかりやすい例。あとは、チアゴについて話す必要がある。彼のテクニックは、チーム全体でハードワークするリバプールにとってリズムを生み出す違いになる。それに加えて、チアゴは自分のエネルギーを攻守に出し切れるようになった。このチームにおいて、これは大きな進歩と言える。互いにその感触があったからこそ、交代時にクロップとも熱い抱擁があった

リバプールvsマンUで生じた圧倒的差のまとめ

【引用:リバプール公式Twitter】

歴史的なライバル関係にあるリバプールとユナイテッドだが、近年は両チームの立場に変化が生じている。シティとの熾烈な優勝争いの一騎討ちを演じているリバプールはこの勝利で暫定首位に浮上。リーグ戦13試合連続無敗(11勝2分)と圧巻の強さを示している一方で、ユナイテッドは6位に沈んでおり、UEFAチャンピオンズリーグ出場権を逃す危機に直面している。なにより、リバプールは勝ち点「76」であるのに対し、消化試合が1試合多いユナイテッドは勝ち点「54」と、その差は「21」と、埋めがたい実力差が数字に表れている(2022年4月現在)。ラングニック監督は今季限りで指揮官を退任し、フロント入りすることが決定しているが、次期監督にとってもユナイテッド復権のミッションは低いハードルではないことは間違いないだろう。だからこそ、リバプールにどのようにして追いつく道筋を立てるのか、興味深くもある。

当記事のインタビュイー

城福浩のプロフィール

U-17日本代表 監督…AFC U-17選手権優勝

FC東京 監督…ナビスコ杯優勝

ヴァンフォーレ甲府 監督…J2優勝

サンフレッチェ広島 監督…J1リーグ2位

東京ヴェルディ 監督…2022年〜現在

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ジョータツ

「Off The Ball」編集長。 大手サッカー専門メディアに過去6年配属。 在籍時は、高校サッカー・J1リーグを主に担当。 「DAZN」企画でドイツ・スペインへの長期出張で現地取材を経験。 人生の転機は、フェルナンド・トーレスの引退会見で直接交わした質疑応答。 趣味はサウナ。